―――――ああ。空ってこんなに蒼いんだなぁ…。
なんて、物思いに耽っていたらあなたの声。
「おい」
「なんすか?先輩」
「いい加減、起きろ」
不機嫌なあなたの声。
「いっつもそんな眉間に皺寄せてたら、機嫌悪そうにみえるっすよ?」
「うるせぇ、余計なお世話だ」
ごりっという音がするほど、頭を踏みつけられた。
いい加減起きないとそろそろ鬼道が飛んできそうだ。
「起きます。起きますから…痛いですって」
「ならさっさと起きて、さっさと付き合え」
「はいはい」
なんだかよく知らないが、よく修行に付き合わされる。
なんでだかなぁ…。
小春日和
「来いっ!!阿散井!!」
「いきますよ!!先輩っ!!」
どうしてまだ一回生の俺が、六回生でしかも席官入り確実…なんて言われている人と修行しているかと言うと…。
ま、この間のが原因だろうな。
この間の魂葬の実施訓練時に大量の虚に襲われた。
そこで先輩と…まぁ、色々とあったわけで。
その日から、こうやって修行に付き合ったり、付き合ってもらったり。
…想いを寄せたり、寄せなかったり。
「もらったぁぁぁあ!!」
「?!」
なんて考え事しているとすぐに喉元に剣を突きつけられる。結構容赦ないんだな、この人。
「死んでんぞ?おまえ。気を抜くな」
「…ういっす…」
誰の所為だっつーの。
と、心の中で文句を言ってみる。意味は皆無に等しい。
男が男にこんな恋愛感情みたいなもん抱くのおかしいんだろうなぁと想っていても、やっぱり好きみたいだ。
好き、なんだよなぁ。
「はあ…」
「なんだ、ため息か?悔しいか?」
「…いえ…」
俺が今想いを寄せるのは、檜佐木修兵。
今、勝ち誇ったように笑っている人。
楽しそうに、笑う人。
「大体一回生が六回生に敵う筈ないですよ…しかも容赦ないし」
「容赦してほしいのか?」
「嫌です」
きぱっと言った。対等に見てくれなきゃ意味がない。手を抜かれるのは嫌だ。
「だったら強くなれ。俺に負けないくらいにな。…ま、でも、敵う筈ないんだよな?」
意地悪そうに笑うから、俺はむっとして言い返した。
「んなのわかんないっすよ」
「おまえさっき自分で言った事覚えてんのか?」
「さっきはさっき。今は今」
「…そういうの屁理屈って言うんだぞ」
「いちいち人の揚げ足取らないでくださいよ、先輩」
ああ言えばこういう、というような子供みたいな言い合いだ。
でも、そんな言い合いですらこの人としていると楽しく感じるし、愛しくも感じる。
「大体先輩有望株言われてるけど、入学試験は二回も落ちたんですよねぇ?」
「う、うるさいっ!俺は、努力型なんだよ!!」
仄かに頬を染めてムキになる貴方が愛しい。
「俺一組だし、成績も優秀っすよ」
「素行は悪いがな」
「…うっ…」
からかう時に目を細めて笑う貴方が愛しい。
「仕方ないじゃないですか!あっちから突っかかってくんですから!」
「そういう理由で上級生も突っかかるのか、お前は」
「…だからー」
「はいはい。売られた喧嘩は買うもんだ、って言うんだろ」
「…ですよ」
俺の言葉を覚えていてくれる貴方が、愛しい。
とても、愛しい。
とても、とても…。
「…ねぇ、先輩」
「なんだよ」
一つだけ、俺の気持ちに賭けをさせてください。
「俺が貴方に敵う可能性はありますか」
不思議そうに首を傾げて、貴方は言った。
「お前は、どう思うわけ?」
「…質問の仕返しって嫌いなんすけど…」
眉を顰める俺に、ため息混じりに答えてくれた。
「お前が敵わないって思ってるなら、一生俺に敵うことはない。
お前が敵う、追い越したいと思って努力をして頑張るなら、可能性くらいは出てくるもんじゃないのか?」
な?と首を傾げて聞き返してきた。
…ああ、そうだなって思う。
「…そうっすね。追い越します。追い越してみせます」
「ま。まずは修行での試合で俺に勝つことだなぁ」
俺は居心地悪そうに頬を掻いた。先輩はにやにやと笑っている。
悔しいが、一回も勝てたことがない。
「勝ってやりますよ」
「いつまでに?」
「…期限付きですか…」
「ああ。そうだ」
なんなんだ、この人は。
「先輩が此処を卒業するまでですか?」
「いや」
「…じゃあ何時なんすか…」
「そうだな」
そして、にやりと一段と意地悪そうに笑うと
いきなり胸倉を掴んで引き寄せてきた。
「?!?!」
首筋に、ちくりと痛みが走った。
「何すんですか?!」
胸倉を離された瞬間にとりあえず離れてそう言ってみた。頬は赤いらしい。熱い。
「それ」
「それっ?!」
さっき痛みの走った首筋辺りを指差された。思わず手でおさえた。
「それが消えるまでに、俺に勝ってみろ」
「…消えるまでって…何つけたんすか?」
「さぁなぁ…」
修行での試合で勝った時よりも、俺をからかう時よりも、一段と楽しそうに笑っていた。
「帰って鏡でも見てみろ。
あと、そうそう」
「…なんすか…」
「期限までに勝てたら、お前の気持ち考えてやってもいいぜ?」
その言葉に思わず目を見開いた。
「…あんた知って…っ?!?!」
「あははははは。まぁ、頑張れよ。応援はしないが、健闘を祈るぜ♪」
いやに楽しげだ。やけに楽しげだ。なんでだが、楽しげだ。
そのまま去ってしまった。その背中が見えなくなる前に、叫んだ。
「…っほんとに…考えてくれるんですか!!」
答えは、
手をひらひらと振られただけ。
でもそれだけで十分だ。
その場に倒れこんだ。
―――――ああ。空ってこんなに蒼いんだなぁ…。
見上げた空は広い。
なんだか、俺の恋路に春がきたようだ。季節はずれの春。
どうやら、しばらくは小春日和のようだ。
追記。
その後寮に戻る途中で吉良と会ったときに、首筋を指差された。
そして、つけられたものの正体を知った。
キスマーク。
「…つかぬことを訊くけれど…相手は…?」
「…訊くな。吉良」
そのとき俺が赤面していたことは言うまでもないだろう。
▽あとがきと言う名の定番の言い訳▽
3553HIT THANKS!!
水羅 朝羽様に捧げます!!
リクエスト頂きましたは、BLEACH修恋。
…初書きです。つたない文字で申し訳ないです!!つうか似非もいいとこですね!!はい。
…ご期待に添えたかどうかは、はてさて。一応恋次を受けっぽくね、修兵さんを攻めっぽくね。
時期は二人がまだ学生だったころ。
小春日和、と言うのは陰暦十月の春のように暖かい日のこと。だったはず。
…いろいろと筋のとおらない話ですが…。
苦情はいつでも受け付けます。
再びキリリク感謝☆では!!
夜月哀那
(c)POT di nerezza A.Y I.A H.K