世は、なにやらクリスマスモードに包まれている。
街の並木はクリスマスの飾り付けが施され、店でもクリスマスにかこつけたセールなども行われている。
店の店員がサンタに仮装したりしていて、街には何人ものサンタがいる。
所詮は子供だましであり、雰囲気を出すためだけのもの。
だけど、街は異様な盛り上がりを見せている。
不思議なものだな、そう思う。
もちろん、軍人の僕にクリスマスなど関係ない。

そう。関係ないと、思っていた。










    *静かなクリスマスの夜に*










あの人に会ったのが、何年前なのだろうか。捕虜となった僕は、いまや立派なデグレアの軍人となっている。
使える主君は、ただ一人。ルヴァイド様だ。
殺したいほどに、憎かったはずなのに。今じゃ、この人の下以外で仕えることも、死ぬことの考えられない。
何が人をここまで変えるのか、それはあの人の人柄なのだろうか。
あの人の、優しさの所為なのだろうか。

わからないな。

そう首を振って、ふっと冬の空を眺めてみた。少し雲があるものの、よく晴れている。
「何を見ているんだ?」
「う、わぁっ!ルヴァイド様?!」
勢いよく振り返ったために横の柱に思い切り、頭を強打した。鈍痛が走る。
「…っ」
「大丈夫か?」
「はい…」
「すまない」
「い、いいえ!そのようなお言葉…」
ルヴァイドはイオスを気遣うように、そっと頭をなでた。痛みがすっと、引いていくようだった。
「…あの、なんの御用ですか?」
「ちょっと予定を聞きにな」
「…予定?」
 今後の軍事演習のことだろうか?それとも、どこかに襲撃?
いろんなことが頭をよぎったが、どれも違った。そう、それは予想外の言葉だった。


「クリスマスに、何か用事はあるか?」

「はい?」


思わずあらぬ声で訊き返してしまった。

 クリスマス?

「えーっと…なぜですか?」
「お前と過ごしたいからだが?」
「…僕と?」
「ああ」

 ルヴァイド様が僕と過ごしたい?この僕と?

「…本気ですか?」
「冗談でこんなこと言うつもりは、ないんだかな」
「ですよね…。軍人にクリスマスはありですか」
「ありだ」
「そうですか…」
答えを出すのに逡巡しているイオスをみて、ふっと笑いを漏らし軽くイオスの頭を撫ぜると
「クリスマスまでに答えを出してくれればいい」
そう言って、どこかに行ってしまった。
残されたイオスは、まとまらない思考を持て余してしばらくそこに立ち尽くしていた。
「…なんだったんだ…」
 夢ではないことだけだ、確からしい。
頭の痛みが、少しだけ戻ってきたから。












クリスマス。どの国の伝統行事なのかはよく知らないが、神の生誕を祝う日らしい。
誰も彼もが浮かれ…ま、本当にそうなのかはわからないけど、大多数の人々がこの日を楽しみにしているものだ。
友達や家族と過ごしたり、恋人と甘い想い出をつくったり、クリスマスにできることはいっぱいある。
 あの人は、僕と過ごして、楽しいのだろうか?
わからないな。あの人の考えていることは。
「…ふぅ」
くるくると廻る思考についていけない。
選択はただ二つ。誘いを受けるか、断るか。
立場上断ることもできないのだが、心情的にそれは微妙だ。どうせなら、楽しみたい。
立場とか関係なく、あの人と一日を楽しく過ごせるなら、それはこの上ない誉れだろう。
誉れ?いや、そうじゃないな。きっと、嬉しい。とても、嬉しい。
 嬉しい…。
でも、誘いを快く受け入れられなかったのは、何故だ?
 ああ、それはきっと…









「ルヴァイド様!」
「イオス。どうかしたか?」
クリスマスの三日前。しんしんと積もる雪を眺めているルヴァイドにイオスは話し掛けた。
「クリスマスのお誘い…喜んで行かせて頂きます!」
「そうか」
柔らかにルヴァイドは笑むと、言った。
「じゃあクリスマスの日に、な」
「はいっ」
 













クリスマス当日。街の盛り上がりは最高潮だった。
イルミネーションが灯り、大きな木には壮大な装飾が施され、店もクリスマス一色に染まっていった。
人々は思い思いの人と街中を歩いていた。
その中に二人も居た。
「すっごい人ですねぇ…」
「そうだな…」
 慣れていないといえば、慣れていない普通の人ごみの中。戦場で人を掻き分けるのは得意でも、こういう人ごみを掻き分けるのは至難の業だ。
「うわっ」
「イオス、はぐれるなよ」
「…はい」
人並みにおされて、ルヴァイドとはぐれてしまいそうになる。見失ったらこの人ごみ中どうすればいいのだろうか。
小走り気味に歩幅の大きいルヴァイドについていく。
「大丈夫か?」
「はいっ」
気遣う声は優しくて、見上げる瞳は一途で、私服に身を纏う姿は凛々しくて、隣にいることすら恐縮してしまう。
 やっぱり、かっこいいなぁ…。
とかなんとか考え事していると、人並みに押されている自分が居る。
「…イオス」
「…は、はい…」
「手をかせ」
「…はい?」
ルヴァイドの大きな手が、目の前に差し出された。
「どうした?」
「いえ…」
「こうすれば、はぐれないだろう」
「わっ…」
それは、とても自然な行為のようだった。恥ずかしがることも照れることもせず、手を握られた。
逆に、こっちの頬が赤くなる。
「ル、ルヴァイド様っ!」
「なんだ?」
「その、手をつないでいただかなくても…っちゃんと、ついていきます…っ」
「…そうか?だが、はぐれたら困るからな」
「…」
確かに、そうなのだが。とても大きな手が、小さな自分の手を包んでいる。暖かい。
「…にしても、手冷たいな」
「そ、そうですか…?」
歩くスピードも心なしか、自分にあわせてくれているような感じがする。
「ま、こうしていれば暖かいだろう」
「…はい」
貴方の優しさが、一番暖かい。









「ルヴァイド様、ルヴァイド様!!」
「どうした?」
「見てください!」
「?」
ルヴァイドが首を傾げて待っていると、イオスはその手に赤い帽子を持ってきた。
サンタと言われる人物の帽子らしい。
「へへっ」
そして、それをイオスは得意げにかぶった。
「似合いますか?」
「ああ」
ミニサンタ、と言ったところだろうか。イオスにその帽子はとても似合っていた。
「どこから持ってきたんだ?」
「無料配布してるんですよ!あ、ルヴァイド様のも持ってきますか?」
「…いや、いい。きっと、似合わないから」
「そうですか?ちょっと残念です」
サンタルヴァイドをすこし拝みたかったな、とイオスは小さく思った。










しばらくは街の中を散策して、歩き回っていった。
雑貨屋さんをみたり、服屋さんに入ってみたり。本当に普通の、ごく普通の一般市民のように楽しんでいた。
その間も、握った手は離さずに二人は歩いていた。
いつのまにか、手を握るという行為が自然なものになっていた。

恋人同士、みたいに。





「ルヴァイド様、次はどこに行きますか?」
「そうだな…。夜景でも見に行くか」
「はいっ!」
二人は見晴らしのいい高台に足を運んだ。多くのカップルが居る中で、人の少ないほうに二人は行った。
「ほ〜ぁ。綺麗ですねぇ」
「そうだな」
妙な雰囲気が、漂う。どうしてだろうか、自然と鼓動が早くなる。
「ルヴァイド様。今日は、誘ってくださってありがとうございます。とても楽しかったです!」
「ああ。俺も楽しかった。お前と居れたから」
「…え?」
 男同士で、こんなこと。変かもしれない。
 男同士で、こんな感情。変かもしれない。

 でも、愛しいという感情に嘘がつけるほどの人間ではないんだ。

 重なる唇を拒む理由など、どこにあるんだろう。

「…んっ…」
「…イオス」
「ルヴァ…イド様…?」
貴方の姿が霞むのは、夜景の仄かな明かりの所為ですか?
それとも、この瞳にあふれる涙の所為ですか?
「何故…泣く?」
「それは…っ」
大きな手が小さな涙を拭った。
「…イオス?」
「…僕は…っ…怖かったんです…!!貴方との…関係が、くずれ…て、しまわないかと…!!」

 こんな風に気持ちを伝える術を持ってしまっては
 この関係が崩れてしまうかもしれないと。

 それは、怖い。
 だから、貴方の誘いを快く受けることはできなかった。

泣きじゃくるその小さな肩を、ルヴァイドは優しく抱きしめた。年齢の割にとても小さな愛しい人を、やっとその腕に抱きしめることができた。
「イオス。今の関係は崩れてしまっても、いいんだ」
「…え?」
「また、新しく作っていけばいい。今度は、恋人ということでな」
「ルヴァイド様…!!」
「イオス」
口を開きかけたイオスを諌めるように名前を呼び、その唇を自分の唇で塞いだ。
今まで触れることのできなかったその唇は、甘美な麻薬のような感覚をルヴァイドに与えていた。
「ん…ぁ…」
慣れない感覚に戸惑いながらも、全てをルヴァイドに委ねる。
「ルヴァイド様…?」
「今は、なにも言うな。今は…お前だけがココにいればいい…」
「…はい…」
言葉すら、今は意味を持たないだろう。
ここでこうして、抱き合っていることが、今最大の意味を持つ。
 








街の喧騒から少し離れたところ。
ひっそりと静まり返った、静かなクリスマスの夜。

抱き合って聞こえた貴方の早まる鼓動

とても、よく聞こえた。





ああ、クリスマスも悪くないな。
なんて、思ったんだ。
















 あとがき。

  2332HIT 感謝!!慧都菜様に捧げます!!
  …ルヴァイオ甘甘だったのですが…さて、ご期待に添えたでしょうか…?(汗
  時期に合わせてクリスマス…。って、あっちにそないなものあるのかぁ?!と、突っ込んではいけませんよ…。
  
  遅れて申し訳ございません!リクもらったのだいぶ前ですよね…;;

  …はい。苦情は常時受け付けております。
  今度ともども闇鍋をよろしくお願いいたします!

  では!!
  キリリク再び感謝☆

                夜月 哀那











                                                                                          (c)POT di nerezza A.Y I.A H.K  
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