消えて。

消えて。

あんたなんか消えちゃえばいい。

死んでよ。

いらないんだから。

いらないいらないいらないいらないいらないいらないいらない。



イラナイ、のに。

どうして、あんたは必要とされるの?










   いつかは消え行く君へ










視界が、歪んでいた。端のほうが少し赤い。どうやら血が流れているらしい。
ここは、どこだろう。よく回らない頭で考える。
「目ぇ覚めた?」
人を嘲るその声が意識を覚醒させた。
仄かな明かりがともるその部屋にいた人影を、鋭くにらみつける。
「ビーニャ・・・っ!!」
「なによぉ。なにもそんな言い方しなくてもいいじゃない。すっごい不愉快」
ビーニャは普段からは考えられないような冷厳な表情をしている。
冷たく磨がれたその雰囲気に思わず気圧されるが、まずは状況判断を優先した。
 自分は、あの人を探していた。行方知れずになったあの人を。
探している途中でビーニャを見つけ、追いかけていたのだか、後ろを取られ昏倒させられ・・・
そして、ここにいる。
殴られたときだろうか、こめかみを切り血が出ている。さっきの視界の赤はこの所為だったようだ。
血はまだ乾いていない。どうやらそんなに時間は経ってないみたいだ。
自分の状況を言えば、服などはそのままだが手を頭の上で一括りにされ、壁にはりつけられている。
足首には足枷がついていて、簡単には逃げれないようだ。
そして、気づいた。床の自分のではない赤い染みに。人の血というものは簡単には拭えないものだ。
「・・・気づいた?」
皮肉気にビーニャが訊いてきた。
「・・・まさかっ・・・!!」
「そのまさか。あんたたちが探してたあの人の血だよ。教えてあげよっか?ここでレイム様があいつに何をしてたかさ」
「・・・やめろ・・・聞きたくない・・・っ!!」
「だめだよぉ、イオスちゃん。そうやってさ、起こってた事実に目を背けるのはさ」
ビーニャはイオスの顔を自分の方に向かせた。
怯えるようなその瞳が、ビーニャの悪戯心と邪心を擽った。
「レイム様はね、あの人をね、この部屋に連れ込んだの。とぉっても欲しかったんだね、あの人のこと。
ずぅっと欲しかったんだって、あの人を」
「やめろっ!聞きたくない!!!」
 想像する結末はあまりに残酷で、惨かった。そんなもの聞きたくない。
無理に顔を背けようとすればビーニャがそれを阻み、無理矢理にでも顔を自分のほうに向けた。
耳を塞ぐ事も手を拘束されている以上叶わない。
 ただ、聞こえてくる事実を心の中で否定しつづけた。
「ずっと虐めてたの。あの人が止めてって泣いても
  「やめろ・・・!!」
 君の血は美しいって、痛めつけて
  「やめろっ!!」
 そうしてね、ずっとね願ってたことをしたの。
  「やめろやめろっ!!」
 なんであんな奴、レイム様は求めたのかな」
ビーニャは自虐的な笑みを浮かべたが、目を瞑っているイオスにはそれが見えない。
 あまりにも寂しいその笑みを彼は見なかった。
「イオスちゃん。よぉーーーーーーく、聞きなよ?!
レイム様は、ここでっあいつをっ犯してたの!!!!すっっごく楽しそうに!!!
どんなにアイツが泣いたって、レイム様はずっとずっと犯しつづけたの!!」
「・・・っ!!やめろっ!!もう聞きたくない!!!」
想像できる、あの人の苦痛に歪んだ顔。愛すべき人への最大の裏切りと、身に降りかかる最悪の恥辱。
どれだけ、心を傷つけたのか。どれだけ、涙を流したのか。
 帰りたいと、どれだけ、願ったか。
 そして、それが叶わなかった絶望を、彼は、彼は。
「ふふっなんでイオスちゃんがそんな痛そうな顔してるのぉ?犯されたのはアイツだよ?
それに、死んでないだけまだいいんじゃない?」
「・・・死んで・・・いない・・・?」
「そうだよぉ。生きてるんだよ・・・あいつは。レイム様の玩具としてね、大切にタイセツに扱われているよ」
 それは、希望か絶望か。
「・・・生きてる・・・。マグナ・・・生きてる・・・っ!!」
 伝えたい。これを、伝えたい。みんなに。
 心配しているあの人に、一番に伝えてあげたい。
  でも、それをこの悪魔は許してくれないのだろう。
「でねぇ、色々と後処理してるときに考えてたんだぁ・・・ここでアイツを殺しちゃおうかなぁって・・・。
だってさ?イオスちゃんだってさ、ルヴァイドちゃん以外犯されたら死にたくなるでしょ?生きてる意味なんてないじゃん。
愛してる人裏切ってまでさ、死ぬほど嫌いな奴に犯されつづけるよりはさ、死んだほうがいいじゃんか?ねぇ?
親切心で、殺しちゃおうかなぁなんて、思ってた」
「そんなの・・・っ親切なんかじゃないだろ!!」
「うん。そう。親切なんかじゃないの。だって、あたしがレイム様に怒られて消されちゃうもん・・・。
そんなの、イヤ。アイツが消えて、あたしも消えるなんてイヤ。レイム様の傍にいれないなんて絶対イヤ。
レイム様が消えた時、あたしも消えるの。だから、そのためにアイツを殺すことはできなかった。
・・・今すぐにでも腹掻っ捌いてその中身ここにぶちまけてやりたかった。もっともっと犯して、あいつの汚れた姿みたかった。
でもさぁ、やっぱレイム様の逆鱗に触れちゃうしー、できなかったんだよねぇ・・・」
はあ、と本当に残念そうに息を吐くビーニャ。そして、にやりとここにきて初めて笑った。
 いやな予感が、背筋を走る。冷や汗がこめかみを伝った。
 冷たく鋭いソレが、全身に針のように突き刺さった。
「だからね、イオスちゃんでそれしようと思って。イオスちゃんなら怒られないし、逆にあんたたちへの牽制になるじゃん。
まさに一石二鳥♪イオスちゃん肌きれいだし、汚しがいありそうだし♪あはははははは♪」
「・・・っ!!」
それは痛みへ戦慄か。
悪魔の少女は、愉快そうにしばらく笑っていた。
囚われた青年は、恐怖にその身を竦ませた。



















「ほらほらぁ、泣かないのぉ?泣かないならぁ、続けちゃうよぉ??」
くすくすと背後にいる少女が嘲笑する。壁に胸をつけるように貼り付けにされた真白い肌を持つ彼の背中は、鞭打ちの跡が惨たらしく刻まれていた。
それでも、叫び声ひとつ上げずにそれに耐えていた。
「つっまんないなぁ」
ピッと、鞭を張る音がする。それから、ヒュッと風を切ったそれがまた背中に赤い筋を刻む。
「・・・っ!!」
鋭く痛みが走ったところから、じわじわと痛みが染み広がっていく。背中の痛点がすべて潰されてしまいそうだった。
 でも、耐えられる。あの人が受けた辱めに比べれば耐えられる。
ぐっと強く下唇を噛んだ。舌を噛んで死ねば、それは負けになる。
「・・・ふぅん・・・。そっか、んじゃあもうちょっと痛いの、いっちゃおっと」
「・・・?」
首を回せる限りそちらに視線をやった。なにやら道具箱の中からごそごそと探していた。
そして、出てきたのは茨のような鞭。
「んふふ・・・」
首を元に戻すことができない。恐怖で体が凍りついて動けない。動かせない。
「そぉっれ!!!」
「・・・っぐぁ!!」
「あ、やっと鳴いたねぇ」
比べ物になんてなりはしない。茨の刺が一瞬刺さり、そこから皮膚を裂き肉を抉り、血管を傷つけ血を流させた。
「ひゃははは♪楽しくなってきたかもぉ」
あの痛みには何度も耐えられそうにない。
「んふふっ」
楽しそうに笑った。笑って笑って、また鞭を振るった。
「っく・・・あぁ!!」
「あきゃははっははははっ♪ははははっはは♪」
鮮血が飛んで、彼女の頬についた。
彼は、ただただ微かな呻き声を上げながら、耐えていた。








いささかそれも飽きたのか、くるくると鞭を弄ぶと何か思い立ったのかイオスの手の拘束を解き、
体を反転させ、壁に寄りかからせた。
「まだ生きてるよねぇ?」
「・・・」
頷く事すら疎ましく、ただすこし顔を上げた。
「うんうん。いいことだ」
フフンと鼻歌を歌いながらイオスの手首に枷のついた手錠をかける。
背中の傷が壁と擦れて痛い。枷のついてる手を上げるのはできなくて、逃げることはできない。
「じゃじゃん♪ナイフとうっじょう☆」
 ああ、刺されるのかとか普通に思ってしまった。
確かに刺した。でもそれは自分の体じゃなかった。それはぐさりとビーニャの体に刺さった。
膝をついて座っていた彼女の太ももに。
「・・・っ?!何を!!」
「自分が刺されるかと思ったのに、なんで己を刺すのかって思った?いやだね、偽善者は」
「・・・貴様・・・何がしたい?!」
やっぱりそういうことをされるといらついた。自分の善意が動いた。
彼女にとってそれは疎ましいもののほかになかった。
 善意?そんなものこの世に必要?
「何がしたいぃ?変なこと聞くねぇ??いーい?あたしはねぇ、この世で善い者、善いもの全部きらーい。
あんたもアイツも、あんたらの仲間もだいっきらい!!だから、あんたを傷つけてあげる!!
あいつはもうあんたら元には戻れない!!戻れない・・・戻れないんだからっ!!何で探すの?!何で求めるの?!
何でアイツだけっ!!この世界に必要とされるみたいに!!どうしてよっどうしてぇ?!」
「・・・・・・」
いきなり叫びだしたビーニャ、それを見てどうしたらいいか戸惑うイオス。彼女はナイフの柄を強く握ったまま叫んでいた。
力を入れるたび、ナイフが深く刺さっていく。血があふれて止まらない。
「なんで・・・っ認めない・・・認めない!!絶対!!」
勢いよくナイフを抜く。痛みなどまるで気にしないように、まるで痛みなどとうに感じていないように。
 ココロなど、死んでしまっているように。
「認めないんだからぁ!!!!」
深く深く彼女の心を抉っている心の痛みは、身体的な痛みとなって彼に襲った。
ナイフが刺さった。彼女よりももっともっと深く深く。
肉を切り、血管を裂き、骨を砕くように。
「あぁぁあぁぁぁ!!」
左脚の太股に何度も何度も刺した。
ナイフを抜くたびに血が飛んで、頬についた。そんなこと気にもとめずに何度も刺した。
痛みのあまりに彼が叫んだ。そんなこと気にもとめずに何度も刺した。
溢れ出た血が小さな血溜りとなって服を濡らしていた。そんなこと気にもとめずに何度も刺した。
刺した部分が赤黒く染まっても、彼が何度叫んでも、もう何度同じところに刺したかもわからなくなっても、
そんなこと気にもとめずに何度も刺した。




そして、ナイフが血で真っ赤に塗られてイオスがもう叫びひとつあげなくなったとき、ビーニャはやっと刺すのをやめた。
「ねぇ、イオスちゃん」
イオスは応えない。寧ろ応えることができない状況にある。
イオスの血で濡れた手を、イオスの頬に添える。血の筋が頬に描かれる。
「きっとイオスちゃんのこと探してるよね。うん。探してるよね・・・。なんでなのかな。なんで?なんで探してくれるの?
愛?信頼?仲間?ナニソレ。目に見えないそんなもの信じられない・・・」
戯言のように呟く。
「・・・使えないコは用なしなんだよ。捨てられるの。そう。だから、イオスちゃんもツカエナイコにしてあげるね。
そして、返してあげる。もう、必要とされないように」

 ワタシ ガ アナタ ヲ コワシテアゲル。

「ね?」































痛みで意識が覚醒したのは、それからまもなくのこと。
体が押し倒されて天井が見えて、ビーニャが見えた。
にこり、と彼女は笑うと。
肩口にさっきよりも大ぶりなナイフを突き立てた。
「っぐぁぁああっ!?!」
「まずは、もう、槍を振るえないように。
もう戦えないようにね」
右腕を、切り落とされた。肉は裂かれ、神経が断絶され、骨が無理に折られ肉の間からその白い無機質なものを覗かせていた。
ごろりと、さっきまで自分の一部だったそれが転がっていた。
血が、海のように広がっていった。
「次に、歩けないように・・・って、もう十分か」
そこにか散々痛めつけられた脚があった。
「では、最後に」
「あ・・・あ・・・?」
ビーニャはイオスのズボンに手をかけて膝のあたりまで脱がせた。
痛々しい傷跡が覗いたが、そっちには目もくれずにイオスの精器を外に晒した。
 いきなりさらけ出されて寒気が走り、背中が若干浮く。また床に戻ったら、今度は悪寒が背筋を走った。
「もう男としても役目も果たせないように、ルヴァイドちゃんに遊んでもらえないように。
こんなもの切り落としちゃうよ」
「っ?!・・・やめっ!!」
「やめないよ。あいつが羽を切り落とされたんなら、あたしはアンタの大事なもの切り落としてあげる」
「やめろ・・・やめろっ!!」

 ――――――ルヴァイド様っ!!







なんの正式な処方もないまま、イオスの精器は切り落とされた。
痛みと、絶望と、心の崩壊が、身体と精神を蝕んだ。

もう、帰れない。帰りたくなどない。
こんな醜態を晒して、あの人の元になど、帰れない。

――――――ルヴァイド様

こんな不甲斐ない僕ですみません。
こんな姿で貴方の元に帰るくらいなら、ここで死んだ方が

死んだほうが気が楽です。



一言呟いた。
「殺せ」
と。

それを彼女は受け入れなかった。


































「ルッヴァイドちゃん♪」
血まみれのビーニャが現れたのはイオスがいなくなって、何時間もたった後。
「・・・ビーニャ!!」
「プレゼントだよぅ♪」
ごろりと投げ出された真白の肌をもった綺麗な右腕。
付け根を見ると変に折れた骨が覗いていた。まだ肉は生々しく、見ているだけでも吐き気がした。
「それ、イオスちゃんの」
「っ!?貴様イオスに何をした!!」
「遊んでただけだよぉ?んふふっ♪でも、早く見つけないとたいへんかもねぇ」
「なんだと・・・?」
「イオスちゃん自分で目が覚めたら、確実に自殺しちゃうよぉ♪あきゃははははははは♪」
簡単に吐かれたその言葉が、胃に重く圧し掛かってきた。
「なんだと・・・?」
「ふふっ。言葉の真意が知りたかったらさぁ、早く見つけなよ。でも、もう元のイオスちゃんには戻れないよ♪
きゃはははははははは♪いい気味」
寒気を感じた。嫌な予感がした。
それはイオスを探し始めた時よりも確実なものとなって襲ってきた。
ビーニャに背を向けてルヴァイドは走りだした。一刻も早くイオスを見つけるために。

「・・・ふふっ♪思い知るといいよ・・・あたしを怒らせたら、どうなるかをさ・・・」





























見るも無残な状況のイオスを発見したのは、それからまもなくのこと。
右腕はなく、脚には無数の刺し傷を負い服は血で真っ赤に染まり、なにより精器を切り落とされているイオスは、
あまりにも惨い状態だった。
絶望にも似たような感情を抱いた。それでも、そっと手を伸ばして触れた頬はすこし温かい。

生きている。

それだけでどこか救われた。

生きている。

それだけでいい。

「だから、馬鹿なことは考えるな・・・イオス」

どんな姿でも君を愛すと誓うから。





一筋の涙が頬を伝った。
























あとがき。

 2300HIT 感謝!!

 ・・・グロ・・・を、目指したけど、いかかでしょうか?
 イオス殺すな言われたから頑張って殺さなかった。
 んー、いまいちよくわかんないな!!
 あ、微妙にこれ―罅割れた愛―をにリンクしてます。
 あ、最後に泣いたのはどっちでもよいですよ。
 うきゃははは。
 藍薙 維麻様に捧げます。
 って副管理にーん。

 ま、よかとです。
 んでは。



                                                                                          (c)POT di nerezza A.Y I.A H.K  
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