いっつもルヴァイド様ルヴァイド様って五月蝿い奴。
いっつもいっつもいっつも、私の名前を憎憎しげに呼ぶ奴。
仕方ない。だって敵同士だもの。わかってる。
でも、本当は・・・
Call Me
ここはデグレア軍駐屯地。
テントを張り焚き火を焚いて、野営している。兵士は見張りを交代で行い仮眠を取り、いつでも戦いが行えるように備えている。
その中でもひときわ目立つ大きなテント。
そこはルヴァイドとイオスのテントだった。
「…」
その駐屯地のある森の中。木陰に隠れてある人物がそれを見下ろしていた。
「…ふぅん。わかりやすぅ…」
ビーニャだった。
別に奇襲や何かを仕掛けにきたわけではない。ただ来ただけだ。
なぜか問われれば、答えることはできないのだが。
「…」
迷うことなく、一番大きなテントに向っていった。
「…誰だ?」
中から声がした。気づかれたらしい。
「答えろ。誰だ?」
どうやら中には彼一人。ちょうどいい。見張りの兵士も今は居ない。
「…ふふっ♪ビーニャだよ」
「っ?!」
すばやく体をテントの中に入れて、中にいた彼に近寄る。
「なっ…?!」
「声出しちゃだーめ。…声出したらここに居る奴ら皆殺しにしちゃうからね?」
「…何が目的だ。ビーニャ」
「…」
また憎憎しげに呼ばれた。眼光は戦場にいるみたいに鋭い。
あの人を呼ぶときとは正反対の呼び方。
「…アナタの大切な人、殺しにきたのかもよ?」
「…させるか」
「むかつくなぁ…なんでさぁ…そうやってさぁ…あーあ…」
つまらなそうに髪を梳くビーニャ。その表情は戦場で見るときとは明らかに違う。
どっちかというと、女の子に近い表情。無論、男の中で育ってきたイオスにはその微妙な違いは読み取れない。
「お前の行動が僕の気に障らない日があったか?」
「ないねぇ。きゃははははは♪」
二人の距離はもう数センチしかない。
「ねぇ。この距離に迫られて何か思う?」
「…殺されるとかそういうことか?」
「…つっまんないぃ…」
「なら、早く帰れ」
「…つれないんだから」
「僕につれてほしいという意味がわからない」
そりゃあわっかんないよねぇ…とビーニャは心の中で呟いた。
「…ねえイオスちゃん」
「…なんだよ」
「私たちって敵同士だよね?」
「…今更、なんだ」
「馴れ合っちゃいけないよね?」
「当たり前だ」
「じゃあなんであたし今ここに居るんだろう?」
「…そんなの僕が聞きたい」
ため息をつくイオス。ビーニャの行動の意図が全く理解できないらしい。
そのはずだ。ビーニャ自身もよくわかっていないのだ。
「…なんでなんだろ」
会いたかった、なんて。
どうして?
「…ビーニャ?」
やっとビーニャに殺意がないことに気づいたイオス。
いぶかしげに顔を覗き込む。
「…」
「なんかムッカつく」
「はっ?!いきなりなんなんだ!?」
「もうやだぁーなんかいやぁー!!ムカつく!!なんであたしがこんな気持ちにならなきゃいけないの?!
イオスちゃんの所為なんだからね!!もぉーなんでよぉー!!」
行き場のない思いを目の前に居るこの原因を与えている人物にぶつける。当の本人はそれに気づいていない。
勢いよく胸倉を掴み掛かる。
「責任とって!!」
「なんのだ!!」
ここまできたら二人はお互いが何をして、いまどうしてこうなったのか全くわからない。
「いおす、ドウシタ?」
「っ!」
テントの中の大声に気付いたのか、ゼルフィルドが中に入ってこようとしている。
マズイ。
「…隠れろっ!」
「…えっ?!」
ビーニャを近くにあった布で覆って隠した。
何故自分が敵を匿うような真似をしているのかわからなかった。
「何カアッタノカ?大声デナニヲ話シテイタ?」
「別に何もないよ。心配かけて悪かったよ」
「…ソウカ。ナライイガ」
適当に言葉を繕ってゼルフィルドを外に出すことに成功。
ほっと肩を撫で下ろし、ビーニャに被せていた布を取る。
らしくもなくしゅんとしているビーニャがいた。不意に、思った。
ああ、この子も女の子なんだな、って。
「…敵陣地だってこと忘れてたのか?」
「…イオスちゃんこそあたしが敵だってわかってる?」
お互いの行動の意図が読めない。
「イオスちゃん…あたしおかしい」
「…お前はいつだっておかしいだろ」
「…ひどいなぁ…」
胸を引き裂きたいほど何かが疼いている。
この人に抱きつきたい。抱きしめて欲しい。
この人にキスしたい。舌を絡めあいたい。
この人に名前を呼んで欲しい。
「イオスちゃぁん…」
「っおい…なんだ…?」
立ち上がってゆっくりとイオスに抱きつく。イオスは突然のビーニャの行動に戸惑いを隠せない。
「…ビーニャ…?」
もっと。もっともっと。呼んで。呼んで呼んで。
あの人を呼ぶみたいに、あたしの名前を、呼んで。
「…イオスちゃんの声すき…」
「…は…?何を…」
「なんでなのかなぁ…あたしイオスちゃんとは違う生き物なはずなのに…なぁんでこんなことしてるんだろ…」
「僕に聞いて答えが出てくるとでも思ってるのか?」
「ううん。…むしろ答えなんてなくて良いかな♪」
あはははっと明るく笑って、強く抱きつく。
イオスの戸惑いは広がる一方。
「おい…っいいかげん離れろ…っ」
「いーや。いいじゃん。今くらい。減るものもないでしょぉー??」
「…だからって…っ」
「今だけは、敵味方なしにしてよ…イオスちゃん。ただのビーニャとして見てよ…」
「…」
どうしていいかわからずに頭を抱えだすイオス。ぐるぐると頭の中で思考が回る。
「ビーニャ」
「なぁに?」
「…とりあえず、離れて欲しい…」
「…なぁんでよぉー」
「あのな…僕は男だらけ軍人暮らしをしてるんだぞ、女の子に免疫なんてない、んだぞ…」
若干頬が赤いのは気のせいではないらしい。ふいっと顔をそらすその仕草が可愛い。
いとしい。
「ふふっ♪かーわいいーイオスちゃん♪」
「からかうつもりか!!」
「おっきな声出したらまた誰かに気付かれちゃうでしょう?」
「…うっ…」
「…そろそろ帰ろうかな…」
「…そうか」
ビーニャは名残惜しそうにイオスから体を離そうとしたが、不意にこのままじゃ何かが惜しいという感情に駆られ
「…ビーニャ?」
自分を不思議そうに見る彼の肩に手を置いて、軽く爪先立ちになるような感じでその唇に自分の唇で触れた。
キスというにはあまりに幼くつたない。ただ、ほんの少し触れて互いの唇の感触がわかる程度。
それでも、十分だった。
「…っな…!!!」
「えっへへ〜vvイオスちゃんの唇頂き♪」
「…ビィ〜ニャ〜ぁ!!」
「きゃっvv怒っちゃ嫌だよきゃははははははっ♪」
またいつものビーニャに戻る。
でも、笑顔はどこか嬉しげで楽しげ。
対してイオスの顔は真っ赤で、憎らしげにこちらを見ている。
「じゃぁねぇ〜♪イオスちゃんvv」
「さっさと帰れ!!!」
次に会うときはまた敵同士だね、とは言いたくなかった。
だから言わずに笑顔で去った。
貴方の赤い顔はとても可愛いわ。
この瞼に焼き付けておくの。
少し触れた唇の感触を思い出すように、指の腹で唇に触れる。
これでいいわ。これでいい。
次にまた敵同士で会う日が来ても
この事を思い出すときだけは
貴方とワタシはただの男と女。
呼んで、呼んで。私を呼んで。
戦場でも、夢の中でも、記憶の中でも、
その声がとても愛しいから。
−あとがき−
ASUKA様に捧げます!!
5050HIT THANKS!!
リクエストは「ほんのり甘めのビニャイオ」
ビーニャ攻めの、甘い!!…と、軽いカルチャーショックを受けつつ
こんなんかな、という妄想で構築されたのがこの話。
毎度毎度書いていますが、夜月はサモをプレイしたことはありません。。。(不届き者)
ので、なぁんか変だなと思っても見逃してください…。
誤字脱字のご指摘承ります!!
と、いうわけで。
再び5050HIT感謝☆
夜月哀那
(c)POT di nerezza A.Y I.A H.K