「ウレクサ」
「なんだ?」
「・・・ん〜」
「・・・なんだ?」
「いや、特に用事はないんだけどね」
「なら呼ぶな」
そう言って君はいつも素っ気ない態度。それが君らしくてどこか笑えて、嬉しくて。

同時に不安になる。








  好きと不安と。









「ねぇ、ウレクサ」
「用がないなら返事は返さないぞ」
「返してるじゃないか」
「・・・なんだ?」
若干不服そうに返事を返すウレクサ。ここがサクロの仕事場で、今は二人きり。ウレクサは本を読み、サクロはそれを見ているだけ。
何気なく流れている二人の時間。
「君は、此れから何所に行くんだい?」
「・・・は?」
突拍子もないそのセリフに目を見開くウレクサ。サクロは薄く笑うと、静かにウレクサの髪に手を伸ばした。
「何所に向かうんだい?何に向かい、今歩いている?」
「・・・何所って・・・。いきなりおかしな事を訊くな、お前は」
「まぁね」
その顔から真面目に聞いているのか、ふざけて訊いているのかは判別できない。
「何所って言われてもな・・・。鍛聖になって、仕事をして・・・。何所とかそういうのはないな」
「そっか。じゃあ、僕はいつもそこにいる?君の居る場所に。君の向かうべき場所に」
「いる。きっとな」
「・・・そうか。よかった」
ウレクサの髪から手を離して、イスの背に体を預け心底安心したようにふぅっと息を吐いた。
不思議そうにウレクサが訊いた。
「何故いきなりそんなことを訊いた?」
「・・・そうだな。不安だから、かな」
「・・・不安?」
「うん」
サクロは敢えてウレクサの方を見ずに、独り言のように言った。

 「君がいなくなってしまうんじゃないかって。僕から、離れていくんじゃないかって」

  理由もなく、不安になる。

「・・・どうして?」
「近くにいるから、かな。手を伸ばせば届く距離にいるのに、どこか離れているようで、届かなくて。
名前を呼んでも応えてくれなくて、どこか遠くに行ってしまうんじゃないかって。
君は時々とても遠い目をするから。ココじゃないどこかを見ているようで」
 離れて、しまいそうで。
「・・・時々不安になるんだ。僕には、君が居ない世界なんて考えられないから」
手の甲を額に乗せ、目を閉じる。眼窩によぎる君の顔はどこかいつも寂しそう。
その心の隙間を僕が埋めることはできないんだろうか?
君の傍に僕はいるのに。だめなのだろうか。
 溝は、埋まりませんか?
「お前は馬鹿だ」
「・・・うん。そう思う」
 君に固執して依存している僕は馬鹿だ。
「すごい身勝手だ」
「うん」
 どうしようもないことを訊いて、君を困らせる僕は身勝手だ。
「なんで・・・っ」
「うん」
 君の言葉、全て受け止めるよ。


 「・・・ウレクサ?」
言葉を続けないのを訝って、ふっとウレクサに目をやるとなんとも言えない怒りとどこか哀しみの混じっている表情をしていた。
 槍を持って。
「ウ・・・ッウレクサっ?!」
思わず座っていたイスから身を上げて、手を前に出した。
ウレクサは、槍を回して切っ先をサクロに向ける。
「・・・あ、あの・・・」
なにがなんだかわからなくて、顔を上げないウレクサに若干の恐怖を感じた。
「何故、俺の目をみて話さない?不安なら、不安と何故俺にぶつけない?お前は勝手だ。自己犠牲にでも浸っているのか?
 ふざけるな」
「話してしまえば・・・その・・・君に嫌な思いをさせてしまうかと思って・・・」
「俺を好きだと言えるお前が、どうして不安を俺に言えないんだ?」
「・・・好きと不安は違うよ・・・」
「では、訊くが、お前は俺に好きだという時俺がお前を嫌いかもしれないということを考慮はしなかったか?」
「・・・へ?」
「答えろ」
「えっと・・・」
槍を向けられたままの状態で、質問に答える。
「・・・考慮はしたけど・・・きっと同じ気持ちだろうって思ってたよ」
 好きである自信も、きっと君が僕を好きである確信もどこかにあった。
「なら、今お前が抱えている不安を・・・どうして・・・っ」
言葉を詰まらせるウレクサ。槍が震えている。
「・・・ウレクサ?」
槍を持つ手が下がってきて、サクロはそっとウレクサに手を伸ばそうとした。
 そのとき。

「わっ!」
槍が飛んできた。
「この・・・っウスラトンカチ!!」
「・・・えっ?!って、ウレクサっ!?!」
そう吐き捨てて、部屋を出て行った。
「・・・ウレクサ?」
完璧に、何がなんだかわからない。ここまで不可解な行動は久々だった。
でも、頭の中ではなにかが組み立てられていた。解らない中に浮かび上がってくるウレクサの気持ち。
「・・・うんっ」
 追いかけよう。















「・・・っはあ・・・。馬鹿は俺か・・・」
全力疾走で誰もいないところまで走ってきた。ちょっとした丘の上のようだ。
「・・・ふう」
自分の愚かさを少し呪う。きちんと最後まで言えばよかった。
しかも。
「ウスラトンカチ・・・なんだ、それは」
口から出た言葉にはっきりいって驚いた。
「・・・はあ」
人に馬鹿と言いながらも、一番の馬鹿は自分だろうなと自嘲した。
 「足が速いね、ウレクサは」
「っ!?サクロっ!!」
追いかけてきたらしく肩で息をしながらそこにいた。頬を上気させ、1回深く長く息を吐いた。
「追いつくのに苦労したよ」
数歩進んでウレクサの前に行く。ウレクサは半歩後ろに退いたが、それ以上は行かなかった。
「ウレクサ、僕の話聞いてくれる?」
「・・・・・・・・・」
特に嫌とも言わなかったので、沈黙を了解と見なし話を進めた。
「ウレクサも、僕と同じ気持ちだった?僕と同じ不安を僕と抱いていた?
 ・・・そうだよね?」
「・・・お前だって・・・時々遠い眼をしていた。俺が、傍に居る時でも時々そうしていた。
さっきお前に偉そうなこと言ったけど・・・俺だって同じだ。お前に言えなかった。不安だった」
「うん。さっき君が言ってた言葉でわかった。ごめんね、ウレクサ。気付いてあげられなくて」
「そんなことはない!俺だって・・・気付けなかったから」
顔を俯かせてどこか申し訳なさそうにするウレクサが、愛しくて優しく手を伸ばして抱きしめた。
「・・・サクロ」
「なに?」
「好きと不安はやっぱり違うな」
「うん。そうだね」

 好きは、とても暖かで不安も付きまとうけどとても愛しいもの。
 不安は、とても心細くて考えれば考えるほど奈落に陥っていくもの。

「でも、分かり合えれば心地のよいものだな」
「うん」
ウレクサも抱き返した。背中に回された細い腕が愛しい。君の髪も、目も、肩も、腰も何もかも愛しい。
「ウレクサ、僕は君の傍にいるよ。どこにも行かない」
「・・・ああ」
「ウレクサは?」
「俺もお前の傍に居る。どこへも行かない・・・」
「うん」
 不安が、今君とこうしている時間だけはすべて溶けて消える。















「そういえば、ウレクサ」
「なんだ?」
帰り道。サクロがふとした疑問を投げつけた。
「ウスラトンカチって何?」
「・・・」
一瞬ウレクサは固まり、それから。
「辞書を引け。辞書を」
「残念。載ってないんだな」
「・・・・・・知るかっっ!」
「あははっ」
頬を赤らめて足早に先に行くウレクサを、小走りでサクロは追った。

 君がいなくなるなんて、考えられない。

振り返る君が、愛しい。


愛しい。

































 ――――・・・愛しい。







 灯台の上。
 君は居ない。
 僕が居るのに。


 「」


 名前を呼ぶ。


 誰も答えない。



















あとがき。

1212HIT感謝!!狐火鬼灯様に捧げます!!
・・・カレプリ。カレーとプリン。サクロとウレクサです。
妙なシリアスかましてすみません・・・っ!
ジャンルの指定がなかったもので・・・。あは。あははは。

 好きと不安は違うけれども、どこか同じモノなんです。

訳わからなくてごめんなさい!苦情上等!
はぁい。副管理人第二号に捧げます。

再びキリリク感謝☆


夜月哀那


                                                                                          (c)POT di nerezza A.Y I.A H.K  
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