【まじない(呪い)】
意味:神仏その他不可思議なものの威力を借りて、災いや病気などを起こしたり、また除いたりする術。〔大辞泉(小学館)より〕
そして、今あいつが読んでいる本の題名は。
『恋のおまじない百選☆〜絶対効果のあるおまじないこれで恋を成功させよう!!〜』
と、いうなんとも乙女チック極まりない男のみるものではない部類の本である。
おまじない
「おい。何を読んでるんだ」
「おまじないの本だよ?」
「平然と答えるな。知ってて聞いてるんだ」
呆れ気味にため息を吐くウレクサ。実際にものすごく呆れているのだが。
「いいじゃないか、おまじない。恋する乙女の健気な願いがここに詰まっているんだよ」
「興味ない」
「冷たいなぁ…」
「…で、なんでお前はそんなものを見ているんだ」
「ん?趣味vv」
この阿呆。
笑顔でサクロはそう答えた。
「…お前の趣味に口を出すつもりはないが、なんでそんなのを俺の部屋で読んでるんだ!!」
”自分の部屋で読め!!”という意味を込めて言った。そんな言葉の真意など知らぬように、サクロは本を読んでいた。
「いいじゃないか。減るものもないだろう?」
「…そんなもの見て、どうするつもりだ」
「え?見るからには実践しないと」
「…ほお…」
段々嫌な予感がしてきたウレクサは傍らに置いている槍に手を伸ばした。
いつでも、刺せる。
「ほらほら、コレとかいいと思わない」
「…何がだ」
「”恋人が素直になってくれるおまじない”」
「………(怒)」
刺し殺しが、決定した。
「一度、黄泉で自分の性格を悔いて来い」
「…へ…?!」
サクロの言い訳を聞く暇もなく、ウレクサは手にもった槍を高々と掲げ刺した。寸でのところで一応は避けてみたものの、
狙った獲物を逃すほどウレクサという人物は甘くは無い。
のちに、血を流して倒れているサクロが発見された。
刺した恋人はその部屋には居なかった。
「サクロ…さん…?」
「やあ、クリュウくん」
「…どうも…あの、血…」
「大丈夫大丈夫。日常茶飯事☆」
親指をぐっと立てて平気なことを一応アピールする。
「…何したんですか」
「えーっとね、コレ読んでただけ」
「…?」
サクロはクリュウにおまじないの本を差し出す。クリュウは渋面を浮かべる。
「あの…」
「なんだい?」
「…趣味、ですか」
「お、クリュウくんは物分りがいいね。その通りだよ」
「それでなんかウレクサさんを怒らせちゃったんですね?」
「…そうみたいなんだ…。僕そんなに悪いことしたかな?ちょっとおまじないに頼ろうかと思っていたのに」
「…はあ」
ここはあえてもう突っ込むまいとして、クリュウはその話題には触れずに本題である仕事の話をサクロとしていた。
数日後。
熱心に何かをしているサクロをウレクサは発見した。訝しげに見ると、どうやら呪いの最中らしい。
小さな人形を作っていた。その裸の人形に着せる服を作っているらしい。
「…何をしているんだ」
「うわっ!!ウレクサ!!いつからそこにっ?!」
「ついさっきだ」
「…あ、そう…。あ、コレ可愛くない?」
「…何をしているんだ」
いきなり人形の服を見せられても対応に困る。
「おまじないvv」
「語尾のマークがうざい」
「ひどいなぁ…」
じょぼくれるサクロの手にあった服をよくよくみると、自分の名が刺繍されていた。
「…おい」
「はい?」
「なんだこれは」
「あ。コレコレ」
数日前の本を取り出しパラパラとページをめくり、目的のページを開くと見せてきた。
「これ」
指差されたそこに書いてあったおまじないの効果は
『恋人とラブラブになれるおまじない!マンネリ気味の恋人との仲をこれで解消して☆』
「…っ(怒)」
「あ、別に僕らがマンネリってわけじゃないよ?ラブラブにもっとなりたいなぁ…って、また!!そんな槍をっ!!」
「黙れ」
有無を言わさずに刺した。作りかけの人形の服に血がかかろうと気にせずに刺した。
「…ふんっ」
「…ひ、ひど…っ」
そして、ずかずかとその場を去った。
それから数日間の間は、おまじないに没頭するサクロと見つかるたびに制裁を与えるウレクサの姿がたびたび目撃された、という。
血痕とはよく残るもので。
殺人現場のような場所がところどころに発見された。
「わかった。いい加減諦めるよ」
「そうしてくれると非常に助かるな」
「…ふう」
やっとおまじないをやめる気になったサクロは、槍を掲げるウレクサにそう言った。今日は刺されずに済むらしい。
「僕はただ君ともぅっとラブラブになりたかっただけなのに…」
はあ、ため息をつきつつそんなことを言ってみた。
睨まれて刺されるかなぁ、なんて明後日な思考をしていたけどそれは起こらなかった。
「お前は何をおまじないに頼っているんだ?」
「…へ?」
「わからんな。気休め程度のものに何を頼り望むんだ?」
「…そりゃあ…勇気の足しにでも」
「あ、そう。馬鹿だ」
「…酷い…」
サクロの周りで冷ややかな秋風が吹き荒れた。木の葉はざーっと風に乗って舞い、なんとも哀愁を漂わせている。
「…おい」
「…なんだい…?」
「一体お前は俺に何をさせたかったんだ?」
「…んー…槍で刺さないで聞いてくれるかい?」
「…一応」
「そ」
一応槍は仕舞われているから、すぐに刺されることは無いだろう。
「『好き』って言って欲しかったんだ」
「…………」
その一言以外はサクロは何も口にしなかった。ただ流れる沈黙に身をゆだねて、ウレクサが口を開くのを待っていた。
「………………………馬鹿かっ」
「うん。かーなーり、馬鹿かな」
やっと口を開いて出た言葉はその言葉。期待通りでなんか笑えてきた。
「ふふっ。あーあ、すごい期待通りの返答」
「…悪かったな!」
頬をほのかに紅く染めてそう言った。外は夕暮れ時で窓からは夕日が差し込んでいた。
「いいのいいの。だって、それが僕の『好き』になった君だからね」
「…相っ変わらずそういうことをあっけからんと言うな!!!!」
「ふう。複雑だねぇ、君は」
「…五月蝿い五月蝿い!!黙れ!!」
「わっ!!槍禁止禁止!!死ぬ死ぬ!!!!」
恥ずかしさと怒りに駆られてウレクサは槍を振り回し始めた。それを見て、紙一重の所でなんとかかわす。
「何を怒ってるんだい?!ウレクサ!!」
「…っ!!」
逃げ回って追いまわされて。
追いまわされて逃げ回って。
いつかは追いつかれて。
「…止めだ!!」
「…っ?!!」
そんな一言を吐かれて、『ああ、こりゃ死ぬな』と思って覚悟を決めた瞬間。
予想外の展開。
「…ウ、レク…サ…?」
机の上に倒れて、槍は左のこめかみをかするギリギリのところに刺さっていて、夕日に照らされるウレクサの顔は真っ赤。
「…………こんな馬鹿に惚れた俺はもっと馬鹿だ…」
圧し掛かるようにして槍を刺してきたウレクサはそう呟いた。
「……えっと…」
「一回しか言わないから、よく聞け」
「…う、うん…?」
訳がわからないがとりあえず頷いておいて、なにやらはぁーっと長いため息を吐くウレクサを見守っていた。
目線は少し逸らし気味に、でも、その言葉は小さくてもはっきりと聞こえた。
「………………………………好き、だ……」
「…え?」
「一回しか言わないからな!!」
「え、あ、うん!!ちゃんと聞こえたよ」
「…ふんっ」
夕日よりも朝日よりも真っ赤に染まった頬、依然変わらぬ強気な眼差しとつんどんけんな言葉。
怒ると槍を振り回す乱暴な性格も、気持ちを素直に言葉にできないその意地っ張りな性格も、なにもかもが愛しい。
可愛いな。君は。
「ずるいなぁ」
「なにがだ…」
「いや、普段言わないくせにこういう時に言うからずるいな、って」
「なにがどうしてずるいのかわけがわからない…」
「ほら、なんていうんだい?その意地っ張り故の特性というかなんというか、日常的に言われるよりも二倍も…
…ううん。そうじゃなく、すごく特別な感じがして嬉しいんだ。だから、ずるいなぁって」
「………わけがわからん…」
「いいんだよ。わかんなくて」
くすくすとサクロは笑うと、段々と火照りの収まっていくウレクサの頬を包んだ。
「…な、なんだ…?」
「お礼」
「…は…?」
そう言って、少し身体を起こしてそのままウレクサを抱き締めるようにキスをした。
「…ん…っ」
微かな抵抗は無視をして、主導権を奪い取った。
「…好きだよ、ウレクサ」
「………知って、る…そんなこと…っ」
「うん。わかってる」
槍を振り回しいた時とは打って変わって、大人しくサクロの腕の中に収まっていた。
「ずっと、好きでいるから。好きでいてほしいな」
「………」
小さく、こくりとウレクサは頷いた。
「可愛い」
「…っ!!そういうこと言うな!!」
「あははっ。ごめんごめん」
「…〜っ!!」
おまじないなんてなくても
君はココに居て、僕を好きでいてくれる。
なら、それでいいかな。なんて。
君と居ると考えてしまう。
あ。でも少しだけ、効果があったかもね。
君が素直になってくれたから。 なんてね。
−あとがき−
4242HIT THANKS!!
遅くなって申し訳ないです…!
リクエストはカレプリことサクウレ、でした。
甘甘…にしては、血みどろ。(笑)槍で刺されまくりなサクロさん。
哀那は最近意地っ張りが大好きなので、ウレクサを書いてるのが楽しく仕方ありませんでしたよvv
と、まぁ。
おまじない。夜月は実践したことは…無いとはいえませんがね、女の子ならしたことはあるかもだけど
男はするか否か。サクロにはしてもらいました。
そういうことで(どういうことだ?)
キリリク感謝いたします!!
(c)POT di nerezza A.Y I.A H.K