ああ。めんどくさい。
ああ。かったるい。
ああ…
なんで俺こんな田舎に居るんだろう…。
郵便屋さんの夏物語
チリンチリン
今時チャリンコで郵便配達をしているのなんて、田舎で郵便配達をしている俺だけだろう。
田舎のくせにいやに郵便物の詰まった重たい鞄を肩からぶら下げて、俺はゆっくり自転車をこいでいた。
田舎っていうのはよく晴れる。雨も降るが、春はとくに晴れが多い。夏は暑い。秋は紅葉が綺麗だ。冬は雪に埋もれて寒い。
そんな春夏秋冬の移り変わりなんていざ知らず、俺は唯一の配達員として年がら年中働いている。
そう、唯一。
田舎じゃ過疎化が進んでいる。俺みたいな若い世代の人間はみんな夢やら希望やら将来を求めて、都会に行った。
都会の過密化の原因はこれだろうなぁ、なんて思っていたりもした。
田舎は確かに、いいところだ。空気はいいし、車はめったにとおらないし、人は優しいし、都会よりごみごみも殺伐ともしていない。
しいて言えば物資の流通が遅れていること。流行には敏感ではない。
いまだ消えない昔ながらの情景。慣れればそれが普通となっている。
まぁ、なんというか平凡だ。そう平凡でつまらない。
ちょっとうちの田舎が特殊だとすれば…
「…うおぅ」
動物が歩き回り、住民と見事な共存を果たしていることか。
えさは自分たちでとるし、こちらに害を与えてこない。だからこっちもあちらに危害は加えないし、干渉をしない。
その割に動物たちは懐きやすく、温厚で可愛い。家畜は別だが。
まぁ、なんつーか、俗にゆうのどかーでとてつもなーく穏やかな田舎だ。
チリンチリン
ま、そんな田舎で俺は自転車をこぎ続けているわけだ。
「こんちわー!郵便屋でーす!!」
いつものように古風な呼びかけをしてみる。いつもなら応答のあるものの、今日は無い。どうしたものか。
この家は特殊で郵便受けが存在していない。田舎だから手渡しでも可だからなのだろうか。(ほとんど手渡しなんだが)
ま、深くは考えたこともなかった。特に不便を感じたこともないからだ。
たった今不便に感じているが。
「…えっと…」
「おばあちゃんなら出かけてるよ?」
「うぉっおっ?!」
ぐるんとものすごい音を立てて振り返ったさきには黒髪の女の子。ここのおばあさんのお孫さんだった…かな?
夏の間だけ遊びにきているのだ。
そうでしたそうでした。
「あははっ。面白い声」
「…いやいや、面白くないですよ」
「郵便?」
「あ、はい」
「おばあちゃんに渡しておくよ?」
「いいっすか?」
「うん」
「じゃあ、お願いします」
その女の子に郵便物を渡して、俺はまた自転車に跨った。
「またこの時間にくるの?明日も?」
「え?あ、はい」
「じゃあ、待ってるね」
「…?」
「待ってる」
「はい…」
何故に俺を待つ?
あ、郵便物を受け取るためにね。なるなる。
と、勝手な解釈をしてその家から俺は去った。
またチリンチリンと自転車をこぎながら次の家に向かうのだ。
「お。時間どおり」
「…(ほんとに待ってた)」
昨日よりも若干おめかしをした女のコが玄関先で待っていた。田舎じゃなかなか見ない今風?とやらの服だ。
ふむ。なかなか可愛いな。過疎化と少子化が連動しているここじゃなかなか若い子は珍しい。
無論、俺のような働き盛りの若者も、だ。
「今日の郵便です」
「はぁい。ねえねえ」
「…はい?」
「郵便屋さんは自分の郵便はどうするの?」
「…は?」
なんでそんなことを聞くんだ?
「答えてよぉ。なに、企業秘密?」
「いや…。普通に仕分けの時によけて帰る時に家に持っていき…ます」
「そっか。さすがに自分の家にまでは配達にはいかないんだねぇ」
「…そりゃあ」
そんなの虚しいにもほどがあるってもんだ。うん。
なかなか不思議な子だ。
俺は帽子を被り直した。なんだかこの子と一緒にいると調子が狂う。
「…じゃ、仕事があるのでー」
「はぁい。頑張ってね」
「はい」
ばいばい、と手を振られた。
なんだか不思議な気分だ。
また明日も彼女は待っているんだろうか。
そのうちに、彼女が家の前で待っていることが日常と化した。
それが普通になって当たり前になっていった。
不思議な気分だった。でも、悪くは無かった。
「ねぇねぇ」
「んー?」
「田舎っていいよねぇ…」
「…そうかあ?」
まぁ、いいこっちゃ良いかもしれないけど。
彼女はふっと笑って、俺の方を向く。夏の日差しを避けるためにすこしだけ玄関にお邪魔をしている。
このあとも仕事が待っているためにそう長くは話せないのだが。
「都会も都会でよくないよ?物資の流通いいけど、なんか荒れてるし、人は心を無くしているみたいで」
「…ふぅん?」
「都会に行きたいと思わない?」
「…あんま」
「でしょ?でも、それはきっと貴方が田舎にいるからよね。都会に慣れると田舎は不便に感じるから…。
自分に大切なものって離れて初めてわかるんだよ」
「…最近思うんだけどさぁ」
「なに?」
「なんか悟り開いてない??言うこと為す事大人びすぎ」
「…そんなごったいそうなもんひらいてませぇん。私はフツーの高校生です」
「あ、高校生だっけ?」
俺がきょとんとしていたのだろうか、彼女が若干むくれている。あ、フツーの女の子だ。
「ごめんごめん」
「いいよ。別に。ほら、仕事でしょ。いってこい」
「…ういーっす」
彼女に急かされ背中を押されて、俺は仕事に戻る。
…あの子には言ってないけど、田舎の郵便屋さんも悪くないと思ってる。
そりゃあめんどくさいしかったるいし、給料安いし人手不足だし、不便だし…
でも
ココがいいんだ。なんか、そう思える。
そして、夏の終わり。
「明日帰るんだっけ?」
「うん」
「そっか」
「…ね、自転車の後ろ乗っけて?」
「…なんで?」
「乗りたいから」
「…仕事終わったらね」
「うん」
頬をほころばせて彼女は笑う。
そして仕事の後彼女を自転車の後ろに乗せた。
夕暮れの街の中、二人で一つの自転車に乗っていた。
夏の終わり。茜色に染まる街の中。夕日でのびる影。背中に感じる暖かい体温と回された腕の心地よさ。
「…また夏にくるのか?」
「うん。きっとね」
「そっか」
なんか安心してる自分がいることがすこし笑えた。
「郵便屋っていい仕事だね」
「そう?」
「うん。手紙を運ぶのっていいね。手紙は心を届けてくれるからね。あたしは好きだよ」
「…うん。そうかも。運ぶと、笑顔に皆がなってくれるから。結構いい仕事かも」
「ね、住所、教えて。帰ってから手紙書くよ」
「…俺に?」
「そう。君に」
「…ふぅん」
彼女はどんな顔してそんなこと言ったのか、俺は今どんな顔してるのか、見れない。
でも、見えなくてよかった気もする。今はただ背中にある体温を、その優しさを感じていたかったから。
ココにある体温が心地よかったから。
そして、夏が終わり彼女は帰り、俺はまた一人で配達をしていた。
再び彼女のいない日常に戻った。
夏が終わって一ヵ月後。
今日も全国各地からこの田舎に送られてくる郵便物をそれぞれに仕分けしている時に、見つけた。
可愛らしい花柄の封筒に整った文字で綴られた自分の住所。
思わず郵便物の山の中から引っつかみだして、差出人を確認した。
彼女の名前と住所が書いてあった。
胸が高鳴った。
一夏の淡い興奮がふつふつと心に甦った。
その日の仕事だけはハイスピードで終わらせた。
伝説になるかもしれないな。マッハで駆け抜ける自転車に乗った郵便屋さんって。
「おつかれっす!!」
「…おー…」
ほとんど郵便局にいる事務員のおじさんも驚くくらいだ。こりゃあすげぇ。
とにかく、俺は手紙をみたいがためにここまでしたのだ。
と、いうわけで。俺は終わったら手紙を手にとった。
丁寧に封を切り、中に入っていた手紙を取り出した。
変に緊張していたが気を落ち着かせて、それを見た。
訳もなく嬉しくなって、久々に山向かって叫んでやりたい気分になった。
暑さに項垂れ仕事をサボって逃亡してやろうかと思うくらいのあの季節が、とても恋しく感じられた。
中に書かれていた内容は俺だけの秘密だ。
教えないからな。俺だけの秘密だからな。
おわり。
あとがき。。。
3300HIT 感謝!!
つうかこれ年明け前じゃねぇ?!とかいう厳しい突っ込みなしでお願いします!!
ポストマンの物語。
ほんとに…申し訳ない。遅れて。
はい。僭越ながらこの夜月が筆を取らせて頂きました。
…とりとめない文章だなぁ。
郵便屋さんのキャラは私が勝手に構築しました。…勝手に、です。
別名「郵便屋さんの夏の恋物語」
女の子からの手紙の内容はご想像にお任せします。
田舎はいいんですよ。大好きです。都会も嫌いじゃないけど…。
…ご指摘・苦情受け付けます。
では!!
夜月哀那
(c)POT di nerezza A.Y I.A H.K