叶わぬ恋と知りながらも
 月の恋人に手を伸ばすのは

 愚か者のする事だろうか



 




       恋に愚行と愚考








 想いを、寄せている人が居た。
 俺の直属の上司、六番隊隊長朽木白哉の恋人。月に見劣りのすることない、とても凛としている綺麗な人。
 高潔で高貴、とても触れられるような人じゃない。言うならば高嶺の花、だ。届くことのない花なのだ。
 一生この手に触れることなどない高嶺にいる綺麗な花。唯一隣にいるのは月のみ。
 隣に居ることを許されたのは月である、隊長だけ。
  二人はとても絵になっていた。貴族生まれであるあの人は隊長の隣が相応しかった。
 流魂の出の俺が、触れられるはずなかった。

 なかった、のに。

 神様は、何を思ったんだろう。
 
















 「阿散井くん」
 「…水羅さん」
 「朝羽でいいよ」
 「駄目っすよ。隊長に怒られます」
 「…怒んないよ。白哉はそんなことじゃ怒んないよ」
 貴族生まれなのにその口調はいやに子供っぽいのがこの人の特徴だった。
 俺、阿散井恋次は六番隊に居る。四番隊に水羅朝羽は居た。この人の恋人は俺と同じ六番隊にいる。
 精神的にキツイ状況には、ある。なぜかこの人は俺を気に入っているらしく、六番隊隊舎に来るたびに俺に話し掛けてきている。
 …恋人である、隊長よりも先に、だ。
 「朝羽」 
 「あ、白哉」
 「来い」
 「はぁい」
 てこてこと彼女は隊長の後を着いて行く。ひらひらと俺に手を振って、隊長の後を着いて行く。
 あどけない声を持っていながら、その雰囲気だけは本当に高潔だった。
 
 でも、決まって彼女が隊舎に来ると隊長は彼女を隊首室に連れて行く。
 理由は、決まっている。
 彼女を抱くために。

 「隊長、この書類に…」
 「後にしろ」
 「…はい」
 扉の向こうから声だけが聞こえる。耳を澄ませば息荒げなあの人の声。
 
  「…もぅ…焦らさないでよ…っ」
  「お前が私の言うことを聞かないからだ」
  「…いぢわる…」
  「…そうさせているのはお前だろう?」
  「…やっ…あん…」
 
 精神的に、辛い。何が悲しくて愛しい人のこんな声を聞かなくてはいけないのだろうか。
 するならば家でやってほしい。
 そして、思う。俺と真っ先に話すのは隊長の気を引くためではないかと。だからここに来るたびに隊長は彼女を抱いているのではないかと。
 もしくは、自惚れかもしれないが俺を挑発しているのか。俺の気を引くためにやってるのではないかと。
  でも、そんなのは自惚れに過ぎない。きっと前者の方が正しいだろう。
 こんなの愚考だ。

  考えるな考えるな。
















 「阿散井くーん」
 「…何すか?隊長ならいないっすよ?」
 「うん。知ってる」
 「…で、何の用ですか。水羅さん」
 「んとね」
 するりと体を彼女は寄せてきた。華奢な体を俺の腕へ。
 思わず身を強張らせる。ここは誰も居ないところだが、見られたらやばいだろう。
 「ちょっ、水羅さんっ」
 「ねぇ、阿散井くん」
 そして彼女は綺麗に笑う。

 「抱いて?」

 何の、つもり?

 頭に浮かぶ疑問符が消えない。

 「あ、なんでこんなこと言うのかって顔してるねー?知りたい?」
 「…俺には、できません」
 「どうして?あたしは白哉の恋人だから?」
 この人はこんなにも軽薄な人だったのだろうか。恋人への忠義を無くしてしまうような。
 「…そうです」
 「あはは。ならそれ勘違い。あたしは白哉の恋人なんかじゃないよ。政略結婚だもの。あたしは白哉に愛なんてないよ」
 「…どういう、ことですか?」
 「だから、こういうこと。白哉は家のためにあたしを抱いてるだけ。あたしを束縛してるだけ。本当に愛してなんていないのよ」
 「…嘘ですよ」
 「嘘じゃないよ?」
 ”嘘いってどうするのよ”と彼女はおどけて笑って見せた。それは本当に笑んでいたのだろうか。
 判別ができない。俺は、騙されようとしているのか?彼女の策略に嵌ろうとしているのか?
 
 でも、彼女が俺にこんな嘘をついてどうなる?
 隊長の気を引くため?いや、ただでさえ傍目では隊長は彼女に固執している。
 隊首室でも抱いているのがいい例だろう。  

 でも、それすら、彼女の策略?

 わからない。わからない。

 「阿散井くんは、あたしが、嫌い?」

 試すように彼女は甘い声で聞く。俺は辛うじて否定をした。

 「じゃあ、好き?」

 どうして、そんなこと聞くのだろう。言ったところで貴方は隊長のモノだ。それに変わりはない。

 「答えて?」

 よりいっそう近づいて彼女は聞いてくる。胸が腕に当たる、吐息が首筋にかかる、大きな瞳が俺を見る。
 
 「…わかっ…てて、聞いてるんなら…趣味、悪いっすよ…」
 「あは。そう?」
 かわいらしく彼女は笑う。するりと腕を俺の首へと移す。細い体が俺の腕の中に納まる。
 そして、唇を重ねられた。すぐに離れて、彼女はこう言った。

 「あたしが嫌いなら突き放して。あたしが好きなら、このまま抱いて」

 答えなんて、決まってた。















 ずるいことだと、わかっていた。

 「ひゃっ…」
 彼女を俺の部屋に連れこんだ。少し乱暴に布団へと押し倒す。抱き方なんてよく知らないけど、頭より体が先に動いていた。
 人間は欲望に素直な生き物なんだなって頭の隅で思った。
 「んもうっ…乱暴にしないでよ」
 子供みたいに彼女は言う。
 「…誘ったのはそっちでしょう?」
 「うん。でも、乱暴はいや。優しくしてよ?」
 「…いつも隊長にそうされてるからですか?」
 「…ううん。どうだろ。白哉は最後に優しいから」
 ”だから騙されてんのかな、あたし”と彼女はまた笑う。よく笑う人なんだと初めて知った気がした。
 でも、それはきっと俺を騙すためなんだろうなと心の片隅で思った。そして、ざわついたものがそれを刺激する。

  なんの悪戯かは知らないが、今彼女は自分の好きにできる。

 「…どーしたの?」
 「いや、別に。なんでもないっす」
 「そ?」
 彼女は抵抗の欠片も見せない。ま、誘ったのはそっちだし当たり前か。
 俺は慣れない手つきで彼女の死覇装を脱がしてく。そのつたない手つきを彼女はからかう事もせずに、身を任せていた。
  白哉の痕が体に残っていた。
 「………」
 「あ、やっぱ残ってる?結構長く残るからなぁ…」
 「…俺の残したら、隊長に見つかりますか?」
 「たぶんね」
 さらりと言う。当たり前と言えば当たり前か。ここで彼女を抱いても彼女が自分のモノになることはないのだ。
 むしろ。
 
 いや。考えないことにしよう。

 「隊長に見つかって怒られるのはごめんですからね」
 そう言って痕をつけずに行為を続けていく。若干不服そうな顔をする彼女を無視して、俺は胸への愛撫をはじめた。
 「ひゃ…っ」
 隊長に可愛がられているその体は感度がよく、ゆっくりと触っただけで彼女は体を震わせた。
 乳白色の綺麗な形の整った乳房を優しくもみ始めた。
 「んっ…あぁ…」
 小さく甘い声をあげる。突起はすぐに堅くなり、それを口に含んで舌で転がせば高く嬌声を上げた。
 「もう下は濡れてるんすかね?」
 「やぁっ…もっ…」
 下に伸ばした手を秘部へと向かわせ、ソコを見つけて触れた。
 すでにそこは濡れていた。
 「…早く、してよぉ…」
 「…隊長にもそんなこと言ってるんすか?」
 「言ってない」
 そこだけはきっぱり言われた。
 「白哉は、自分の欲求に素直なの…そうは見えないでしょ?」
 「…まあ」
 「だから、あたしをすぐに抱くの。あたしが言わなくても、してくれる。…焦らすときはあるけど」
 隊長は、いつもこんな彼女を見ていてそれを独り占めにしていた。
 性を求める彼女を困ったような顔をして求める彼女を、隊長はいつも見ていた。
  ふつふつと、何かが湧き上がってきていた。
  ふっとそれが何者であるかを本能が理解した。
 「俺も自分の欲求には素直な方です」
 「抑えるのも上手だけどね」
 「…よくわかりますね」
 「うん。なんとなくね」
 へろんと笑う。いろんな笑顔を持っている人だ。綺麗に笑い、悪戯に笑い、柔らかくも堅くも笑むことができる。
  騙されているな、そうまた思った。
 「早く」
 彼女はそう急かせた。熱を帯びる彼女の下は早く俺を欲しがっているようだった。
 欲望には応えよう。欲求に素直になろう。それが人間の性ってものだろう。
 勃ったそれを彼女の濡れたソコに挿入した。普段から白哉の相手をしている所為かずぶずぶとそれを彼女は飲み込んでいく。
 「ひゃああっ…」
 悦んだ声をあげる。耳に響くその声が耳を熱くし、繋がった事による悦びから俺の体全体が熱くなる。
 次第にそれも大きさを増していくのが自分でもわかった。
 「…おっきぃ…」
 「…水羅さんの所為っすよ…」
 「朝羽…って呼んでよ…」
 それに応えることを俺はしなかった。これ以上彼女の策に溺れてしまったらきっと、抜けられなくなる。今もがけっぷち。
 すれすれのところで俺は理性をまだ保っている。
 だから、腰を動かした。彼女の意識を混濁させるために。
 「うひゃっ…ああぁ…んっ…」
 彼女の中は熱くきつく締め付けてきた。その締め付けすら気持ちよく思ってしまうのはやはり俺が彼女を好きな所為だろう。
 「あふぁ…ぁん…」
 目を閉じてぞくりと彼女は体を震わせた。久々の別の男の感覚に酔っているのだろうか。
 「もっとぉ…」
 うっすら瞳を開いて甘えた声で言った。それは媚薬のように体に広がり、体は素直にそれに応えた。
 「ひゃあっ…ああっ!あぁん…」
 「…っイきますよ…っ」
 自分の絶頂が近いこともわかっていた。酔わされているのは俺のほうか。
 彼女の中で俺は性を放った。熱い飛沫が彼女の中で広がる。
 「ああああぁぁ…」
 甲高い声で鳴くと、彼女もイって締め付けが一段と強くなった。中で弾けたドロドロとしたそれは許容量を超え、溢れ出してきた。
 「もっとぉ…もっとぉしてぇっ…」
 首に手を回し、彼女は耳を噛みながら言った。
 「…じゃあ一つ答えてください」
 「…なぁに?」
 「なんで、俺なんですか」
 「…え…?」
 肩で荒く息をしながら彼女は首を傾げた。汗で肌に長い黒髪は張り付き、紅い痕は扇情的で、無垢な瞳が俺を見つめる。
 瞳に俺が写っている。貴方の中で俺はどう映っていますか?

 「…好き、だから」

 躊躇い無く吐かれたその言葉の真偽を問う余裕は
 すでにがけっぷちの俺にはなかった


















 
 「恋次っ…恋次ぃっ…!!」
 あれから求められるがまま行為に応えていた。彼女のあの言葉が俺の思考にフィルターをかけ、理性を取り払い、欲望に素直な獣にした。
 「ひゃぁぁぁあああ!!」
 俺の名前を呼んで彼女はイッた。広がる熱の感覚に快楽すら超えて、それは何になったのだろう。
  わからない。
 「…朝羽…」
 「…あ…」
 嬉しそうに彼女は笑んだ。
 「…名前…呼んでくれた…」
 嬉しそうに笑む彼女を、自分を求める彼女を、腕の中乱れ叫ぶ彼女を、俺はもう手放すことなんてできない。
 「朝羽…朝羽…」
 狂ったように名前を呼んだ。狂おしいほどに彼女を求めた。狂ってしまいたいほど彼女に愛されたいと願ってしまった。
 
 彼女は俺のモノにはならない。
 そんなことわかっている。
 だから俺は
 
 彼女のモノになろう。
























 「………」
 ふっと目がさめてのろりと体を起こす。腰に響く鈍痛に顔を歪めながらも、色々と上手くいったことに顔を緩ませた。
  彼は私のモノになった。
 「…恋次…」
 自分の横で眠る彼の名を呼ぶ。彼はそれに応えない。安らかに寝息を立てて眠っている。
 「君が好きっていうのは、本当」
 彼女は言う。
 「でも、白哉があたしを愛していないっていうのは嘘。そしてあたしが白哉を愛していないっていうのも嘘」
 にこりを彼女は笑う。
 「あたしね、白哉を愛してるし恋次が好き。だから二人とも欲しかったの。
 だからね、君をモノにしたの。これで二人はあたしのモノだよね」
 彼女は笑う。綺麗に笑う。
 恋次の好きな笑みを浮かべて、ふっとキスを落とした。





 そう。
 わかっていた。
 策に嵌った俺は彼女の元に堕ちたのだ。

 













 あとがき。。。

  3800HIT THANKS!!

  リクは恋次裏夢。鬼畜も可!!だったのですが、今回は鬼畜ではなくヒロイン小悪魔夢。
  …小?小悪魔?いやいや、悪魔だろ。この女…。
  二人とも欲しいとか貪欲だわ…とか思いながら仕上げてました。
  恋次は律儀でお馬鹿で好きです。なんかこんな女に捕まりそう(笑)
  はい。夢はこれが第二作目。なんたるこった。
  相変わらずつたなくまとまりもないものです。
  「恋に愚行と愚考」
  まぁ、二人の考えと行動みたいな…ねぇ?(同意を求めるな)

  夜月と仲良くしていただき…それにも感謝しつつ捧げます。
  煮るなり焼くなり好きにしてくださいっ!苦情は受け付けます!!

  それでは。
  キリリク感謝☆


  夜月哀那





                                                                                          (c)POT di nerezza A.Y I.A H.K  
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