忘れられた島でおこった
小さく、それでいて大きな戦いも終わってから
もう季節は一巡りしていた。



僕はいまだ慣れぬ太陽の光の下、
君のとなりにいる。














明るい声を残して、子供たちは手を振り走り去っていく。
自分の生徒である彼らを見送った後レックスは大きく伸びをした。
「うん…今日もがんばったな」
「えぇ。お疲れ様です」
「アリーゼもね」
眼鏡をはずし、一緒に”先生”をするようになった自分の最初の生徒の方を見る。
「明日も朝早いですから、はやいとこ片付けましょう?」
「そうだね」
そう言いあって、レックスとアリーゼは授業の片付けにかかった。
といってもここは青空教室。
片付けるのは自分の教科書類や小さな黒板くらいだが。
「では私は先に戻りますけど…先生は…?」
「俺は…もう少ししてから戻るよ」
「わかりました。夕方少し雨が降るとのことですので、早めに帰ってくださいね」
「わかったよ」
そう言って、去っていくアリーゼのすがたを少しの間ながめていた。
それから、
いつものようにレックスは木の裏にまわる。
みんなの黒板として使っている大きな木の裏。








木の裏にまわると、そこにはいつも見慣れた黒い髪。
木にもたれて眠っている”彼”がいる。
起こすまいと静かに近寄ったつもりだったが、
一歩踏み出した時点で彼は目を開けた。
「…せんせい?」
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
困ったように俺がそう言うと、彼は――――イスラは、ゆっくりと首を横にふった。
「だってせんせいは、べんきょうおわったら、おこしにきてくれるでしょ?」
「うん、そうだね。じゃあ、おはよう」
「おはようー。」
あどけない微笑みを見て、俺もつられて笑ってしまう。
それなのに、痛い。
あの時―――俺たちを守るために剣の力を全て使ったイスラは
自らの記憶を封じてしまった。
俺の前で笑っているのは、君であって、君ではない。


君は 今どこに?


















ぼくの手を引いて歩き出す君は
僕のことをみていない。

「せんせい?」
「どうかした?イスラ」
「きのうのよる、おねえちゃんがぼくにね…」
あの日以来、僕は”ぼく”を演じ続けている。
記憶喪失を演じ続けることで、僕はあの記憶を封じて。
「…」
それが正しい事だと思ったことは一度もない。
結局、どれだけ巡っても僕は皆を騙しているわけで、
皆の中にはあの”僕”はもういないのだ。
「…イスラ?」
気付けば足を止めていた。
声をかけた君の顔は、「心配」以外の何者でもない。
たのむからそんな顔をしないで。
ぼくはココにいるんだから。
「大丈夫か…?どこか、痛いのか?」
「ううん…」
ぼくは笑ってそれを否定する。
「ダイジョウブだよ…」
そして君はまた”ぼく”の手を引いて歩き出す。


僕のことは、一度も見なかった。

















一年も時が過ぎたのに。
俺の前に居るのは君じゃない君だ。




一年なんてあっという間だ。
ここまで演じ続けた僕が憎らしい。





















その日も
二人は授業の後に誰も居ない教室で話していた。
「俺はね…」
たいてい話されるのは、この島で起きたこと。
レックスが、少しでも彼の記憶が戻るきっかけになれば、と思って話すのだ。
イスラはそれを黙って聞く。
時には何も知らないように質問までしてみせる。
今日もそんな展開のつもりだった。
「前から好きな人がいるんだよ」
「すきなひと?」
これはイスラにとっても初耳だった。
半分演技で、半分興味で聞き返す。
「先生は、悲しい気持ちの時も皆に心配させないようにいっつも笑ってたんだ。
だけど、そんな事してもその人にはバレてた。」
そんな人、いただろうか、とイスラは思考をめぐらせた。
元暗殺者の海賊あたりならなんでもわかっていそうな顔をしているが、正直、彼に先生がずっと恋心を抱いていただんて、イヤすぎる。
それなら…
「…おねぇちゃん?」
「ううん。…確かに彼女はすきだし、彼女にはよく色々と見透かされてたけど…」
「じゃあだれなの?ぼくのしってるひと?」
「イスラの…知ってる人、かな」
空にぽつんと浮かぶ雲をながめて、レックスは呟くように言った。
「先生はね、自分の大切な人たちを守れるだけの力が欲しくて軍人になったんだよ?
…前にも話したよね?」
「うん」
「それなのに…」
レックスはイスラから見えない位置で強く拳を握り締めた。
「守れなかったんだ…!その人だけ…っ!!」
「そうなの?」
――レックスが?このお人好しが守れなかった人なんて、いた、か?
思考をフルに回転させるも、そんな人見つからない。
ふとイスラが顔をあげると、レックスの瞳はわずかに潤んでいる。
「そのひと、しんじゃったの?」
「ううん…。生きてるよ…。いつか、帰ってくるんだ…。俺はそう信じてる…」
「せんせい…ないてるの?」
言われてレックスはピクリと肩をふるわせる。
それでも何でもないそぶりでイスラに笑いかけてみせた。
「…ないてないよ。」
「そう。よかっ―――――」
イスラは言葉を止めた。
レックスの目を見たまま、動きまでも止めた。
「ど、どうした…?」
動かないイスラを心配して、レックスは彼をのぞきこむ。
まだ少し潤んでいるレックスの瞳に映っているのは――――――。













「どうしたんだ…?急に…」
「せんせい」
「な、何?」
「………そのひと、いまどこにいるの?」
「え…?」
イスラは聞いた。
震えそうになる肩を、しっかりおさえて。
そして、レックスの瞳にうつる、自分自身を見て。
「…すごく近くにいるはずなのに、届かないくらい遠くにいるんだ」
レックスは悲しそうに笑って言った。
「会いたい…」
小さな声でそう呟いて。


「―――――!?」


呟きをかき消すように、イスラはレックスに抱きついていた。
「ど、どうしたの!?もう泣いてないよ!?」
慌てふためくレックスに、イスラは耳元で呟いた。
「―――…」
「何?」


「馬鹿だよ…」


「え…?」
「僕なら…ずっとここにいたのに…っ」
「イスラ…記憶が…!?」
「記憶なんて一度も手放しちゃいない…」
押し殺した声で、自分自身にも言い聞かせるように言った。
「――――よかった…」
「…!?」
不意に、きつく抱き締めかえされた。
「レッ…」
「もう逢えないかと思った…!!もう二度と…っ」
「ごめ…、ごめんなさ…い…っ」

 ここにいるから
 ずっとここにいるから

「だから僕を見て…!ぼくじゃなくって、僕を見ててよ…!」
「うん…ずっと、見てるから…。ずっと探してたんだから…」
「う…ん……」














しばらくの沈黙。
短いようでとても長く、それでいて優しい時間




頬を伝う暖かさは、どちらのものだったのか。

















 



 あとがこうとした。

  不完全燃焼 Yes,I'm OK!ウーイエ!!
  こーいうシリアス(?)は哀那とか維麻とかにたのめばよかった、と
  書いてる途中に五回は思った自信がある。
  でも、自分の考えをそっくりそのまま二人がもってるハズもないのよね。

  鬼灯が考えるイスラED論。
  まぁこの雑文はほおっておくとして、私はあの白イスラは
  演技だと思ってやまない部分があるのですよね。
  結局やってることは昔を同じ。前進できないイスラに萌。
  別にマジに記憶喪失でもいいんですケドね。
  嘘からでた誠ってやつです(笑)←5〜7話より。
  でも記憶もどった瞬間に、また死ににいくのではないかとちょっと心配。
  頭いいけど単細胞なイスラに萌。
  以上。







                                                                                          (c)POT di nerezza A.Y I.A H.K  
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