私の愛する人は、他の人を愛している。
その人もまた、他の人を愛している。



そんなの絶対認めない。







  ―届かない 届かない―









「うー・・・ホコリっぽい・・・。」
ホコリだらけ、死体だらけの屋敷をウロウロしながらマグナがぼやいた。
「ブーツブツ言ってねぇでとっとと道を探しやがれ!」
「酷いよ・・・。」
ぐすっと泣き真似をしてみる。
だが、そこにいる誰もが真似であることを知っていたのであえて声をかけなかった。
それが何故か、マグナに変な焦りのようなものを感じさせた。
「じゃじゃじゃ、じゃあっ!!俺、あっちのほう見てくるから!!」
「一人で歩くのは危な・・・ってマグナ!」
ネスティの静止の声もろくに聞かず、マグナは奥の部屋に走り出していた。
それを見て、ネスティはヤレヤレと肩をすくめてみせる。
「・・・追ったほうがいいんじゃねーの・・・?」
「・・・そうだな。」
「あ、私も行きます。」
バルレルの提案に、ネスティとアメルの2人がのり、暗い部屋の奥まで探しに行くことになった。

















そのころマグナは―――――。
「ってーーーーー・・・。」
全然違う部屋にいた。
古い屋敷だったため、床の一部が抜けて、下のフロアまで落ちていたのだった。
「くそぉー・・・。何だってこんな古いんだよ・・・。」
落ちてきたのは、ドアも、窓も、何もない部屋。
おまけに、穴の開いたはずの天井は上のフロアで何かが倒れて覆い被さったように、塞がっている。
(・・・まいったな。)
もう一度、部屋を見回した。
やはり、ドアもなく、窓もない。


だけど


さっきまでいなかった奴がそこにいた。


「やっぱりアンタなの。」
「・・・!?」
「また、レイム様のところに来たんだぁ。ふぅん・・・。」
コツ、コツ、とゆっくりマグナの元に歩いてくる音が聞こえる。
「ビーニャ・・・!!なんでこんな所に!」
「それはこっちのセリフだよぉ。レイム様のお屋敷に侵入だなんて・・・。
そんなに、レイム様が好き?」
「違う!俺はあの人・・・あんな人なんて!!」
「だよねぇ。」
ビーニャはニヤリと笑った。
一瞬マグナは背筋が凍りついたような感覚を覚えた。
「ここで好きって言う位だったらアタシがとっくに殺してるもんねぇ。」
「・・・!?」
マグナは恐怖で1歩引いた。
そんなマグナに、ビーニャは何かを放り投げた。
「何、コレ・・・?」
反射的にマグナはそれを受け取った。
辺りが薄暗くてよくわからないが、とりあえず冷たいものだった。
「あれ、見えない??」
クスクスとビーニャは笑う。
「じゃあ、少し明るくしよっか。」
急に前方が明るくなって、マグナの手元がはっきりしてきた。
「ひっ・・・!!」
マグナが掴んでいたのは、青白い、腕。
切り口から血は流れておらず、冷たく、固くなっていた。
マグナはそれを床に投げ捨てた。
「乱暴に扱わないでよぉ・・・!アタシの手!!」
片腕のないビーニャが怒ったように言う。
まだ残っているほうの手からは、召喚術による緑色の光が溢れている。
そして、
「ペトラミア・・・。」
異世界から幻獣を喚びだした。
上半身が人間の女性のようで、下半身が蛇のような召喚獣が現れた。
「あのニンゲンを大人しくさせてあげて♪」
ビーニャの命令に従い、ペトラミアはゆっくり手を動かした。
「・・・!しまっ・・・!!」
マグナの両手、両足の先が石に変えられてしまった。
あまりの重さにマグナはその場に仰向けに倒れる。
起き上がろうとしても手足が重すぎて身動きが取れない。
「ふふふ・・・♪」
ビーニャは楽しそうにマグナの顔を覗き込んだ。
「今からアンタはアタシのオモチャ・・・。」」
マグナは、少女の悪魔のような微笑みに、ただならぬ恐怖を覚えた。
「ちょっと気持ち悪いから、見ないほうがいいかなーーー。」
ビーニャは両手の使うことのできるペトラミアに指示を出して、マグナに目隠しをさせた。
「な・・・やめろ・・・!」
暗い闇の中で、オモチャは少女に遊ばれた。

























「ひ・・・やぁ・・・っ。」
視覚が遮られると他の感覚が余計に働く。
マグナはなにも見えない中、胸の辺りをゆっくり動くぬるぬるとした感覚に襲われていた。
服をほとんど脱がされ、逃げることも出来ず、ただその場に倒されていた。
「おもしろいねぇ。」
アザラシ系の魔獣をクッションにしながらねっころがっているビーニャは、横にいるペトラミアにそう言った。
「見なきゃ何かわかんないでしょ?どお?」
悪戯っぽく笑って、ビーニャはマグナにぬるぬるした物体のことを尋ねた。
「んぅ・・・っ」
「それね、メイトルパの寄生虫の幼虫。ワームって呼ばれてる奴なの。
きゃはははっ!可愛いでしょ?」
モゾモゾと、ワームはマグナの身体の上を動き回る。
ワームの小さな足がぬるぬるとした液体と一緒にマグナの胸の突起にあたるたび、
マグナは小さく甘い声を上げ、そのたびにビーニャは楽しそうに笑う。
「気持ちいい?」
「いや・・・だっ。やめろ・・・!!」
「やーだよぉーーー。」
マグナに見えないのを承知の上で、ベェっと舌を出した。
それから、もう一匹のワームを喚び出す。
「ありゃ。ちょっと大きいの喚んじゃったかな??まいっか。」
ビーニャはワームをマグナの上に落とした。
何も見えていないマグナはビクッと震える。
新しく投入されたワームは、マグナの下部へと向かった。
そしてワームは小さな口器で、マグナ自身を貪り始めた。
「ひゃう・・・!?あ、う・・・。」
「わぁー・・・。グロテスク。」
二匹の怪蟲に喰われていくニンゲン。
蟲が通った後に残していく濁った色の粘液が、さらに不気味さを拡大している。
「そう・・・。そのまま・・・。」
「くっ・・・。っぁあ・・・!!」
「うふふ・・・♪」
正確には、この女に喰われているのかも知れない。























「あ・・・ぁああ・・・っ!!」
ワームはまるで"当たり前"とでも言うようにマグナの中へ身体を押し込めていった。
マグナの声色が、今までとは異なったものへと変わる。
ワームの身体を覆っていた粘液が潤滑油をなって恐ろしいほど簡単に、ワームはマグナの中へと飲み込まれていった。
「はっ・・・ぅん・・・!」
自分で見ることの出来ないこの感覚は、恐怖以外の何者でもない。
見えない何かが、自分の上で、自分の中で、不規則的に蠢いている。
すでに、マグナにつけられた目隠しは、恐怖による涙で濡れていた。
「とても見られたものじゃないよぉ・・・。今のアンタ。」
「何が・・・だ・・・っ!!」
「そんな格好で。そんなグショグショで。蟲相手にそんな声だして。」
ビーニャはニコニコと笑った。
もちろんマグナには見えていないが。
「こんなんじゃ、誰にも愛してもらえないよねぇ。きっと。」
「!?」
「自分がどんなに想っていたって誰も受け入れてくれないの・・・!
きゃはははははっ!!」
悪魔は笑った。
すべての想いを否定するように。
「違う・・・そんな事、ない・・・っ!!」
「・・・?」
「俺たちは・・・こんな事ぐらい、で・・・離れたりしないっ!!」
マグナの偽りのない本当の想いに対する自信。
その自信が。
その想いが。

彼女が辛うじ装っていた平常心を、打ち壊した。










「あはははははっ!きゃははははっ!!」









突然ビーニャは部屋いっぱいに響く声で笑い出した。
「こんな事ぐらいで?きゃはははっ!そうだよね、まだ足りないよねぇ!!」
「なっ・・・!?」
目隠しをされているマグナは、ビーニャの気配がガラリと変わったことに気付いた。
ビーニャはパチンと指を鳴らした。
「・・・送還。」
彼女がそう呟くと、クッション的魔獣とぺトラミア、それにたった今までマグナを喰らっていた怪蟲たちは姿を消した。
「見るといいよぉ。自分が今、どんななのかをさっ!!」
ビーニャは強引にマグナの目隠しをはずした。
送還されても尚消えぬ、ペトラミアによる石化した手足。
身体に纏わりついている、濁った色の粘液。
怪蟲に貪られ、いやらしい赤い傷跡ののこる身体。
溢れだす涙。
上気する頬。
それらすべてをマグナ本人に見せ付けた。
「う・・・あ・・・!!」
今の自分の姿を見てしまったマグナは、声になりきっていないような声を出す。





「これでも離れない絆!?これでもまだそう思える!?」




ビーニャは嘲るように笑った。

目の前の男を。

そして、

自分の中にある、何かを。









「・・・っ!」
「・・・何っよ・・・。」
一瞬で、ビーニャから笑顔が消えた。
マグナは何も言わず。強くビーニャのことを見つめている。
「何よ・・・まだ反論するつもりなのぉ・・・?」
「・・・俺たちは・・・!!」


「ウルサイっ!!」


ダンッとビーニャはマグナの胸の辺りを踏みつけた。
「ぐっ・・・!」
「おかしい・・・。ありえない・・・!!アンタだけが想いを受け止めてもらって・・・。
アタシなんて届かない・・・届かないのに!!!」
「かはっ・・・けほっ・・・!」
「そんなの絶対認めない・・・!!」
ビーニャの手の中では、いつのまにかナイフが刃を光らせていた。
「それならアンタをボロボロにしてやる・・・。誰からも愛されることのないくらい・・・ボロボロに・・・!!」
「や・・・やめろ・・・!!」
「アンタの仲間に見つかったその時が・・・すごく楽しみ・・・!!」
「やめっ・・・」
マグナが最後まで言うのを待たずに、ビーニャはナイフを振り下ろした。
彼女の傷と同じ部分―――腕の付け根を。
「うぁ・・・!!ぐっあああああ!!」
「あははははははっ!!」

何度も。
何度も何度も。
切りつけて。切りつけて。









「うわぁあああああああっ!!?」

「きゃはははは!!あはははっ!あーーーっはははははは!!!!」






























気付いたときには切り落としていた。














































片腕を失い、意識を失った彼を
仲間たちが発見するのに
そう時間がかからなかった。

























―あとがき―

・・・楽しいっすね。マグナいぢめ。
最初はメロメインにしようと思ったけど。
途中でやめました(笑)

あの緑色のあの魔獣をアザラシだとしか思ってないし、
同時にビーニャのクッションだとしか思っていません。






                                                                                          (c)POT di nerezza A.Y I.A H.K  
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